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ざんぎ屋旭 開業ものがたり

ざんぎ屋旭 開業ものがたり その1

6月21日のオープンは月曜日だったと、今でもはっきり覚えている。前日の日曜日をオープン予定日としていたが、仕込みなどが間に合わず月曜日にずれ込んだ。
はじめての商売で、はじめてのざんぎ屋。どれだけ売れるのかも全く判らないため、数字の計算で1日の売り上げ目標を3万円としてみた。ざっくばらんに考え て、3万円ならお店としてなんとか成り立つだろうと試算していたし、3万円ぐらいならなんとか売れるだろうという素人考えからだ。
当時のざんぎ1人前は280円だったので、3万円だと108人前となる。そう考えると心配だった。本当に108人前も売れるだろうかと。
念のため少し多めの肉を仕込んでおいたが、実際どうなるか全くの予想外で、たくさんの売れ残りも覚悟していた。
1日目の売り上げは34770円で、仕込んだ肉は完売し、少し早めの閉店となった。妻と2人で完売を喜んだのを覚えている。「あぁ、これならなんとか上手くいくだろう。」2人で今後の希望と期待を口々に言い合いながら、洗い物や片づけを済ませ、家路に着いた。
オープンから1か月は調子よく、3万円という目標は毎日軽々と達成していた。金、土、日は5万円を超える日もあった。このまま頑張っていけば売上は上がり続けていくのだ。「上手く行ったな」と単純に考えた。
ちょうど1か月を過ぎたころからだ。途端に売上が下がりだした。毎日の売り上げは2万円台が多くなった。まずい。自分なりに理由を考えた。ちょうど世の中 は夏休みに入ったころだったが、お客は学生ばかりじゃない。7月、暑くなってきてからあげが売れない時期なのか。やはり、オープンバブルが1か月で終わっ たのだろう。店前を行き来してざんぎ屋オープンを目にしていた方々がお客様になってくれた。それが1巡して終わったのだ。お客様は初めてのものには購買動 機がはっきりとある。それは「食べたことがないから買ってみる」だ。しかし1回食べると購買動機は満たされる。2回目の動機がない。
慣れない仕事で、ただバタバタと慌ただしく過ぎ去った1か月間が終わって、ざんぎ屋は急に危機的状況に立たされた。

オープン当時のメニューはわずか4品。ざんぎ、塩ざんぎ、半身揚げ、北海ホタテ混ぜご飯、この4つだけだった。朝10時前 ぐらいにお店に来て、まずご飯を炊く。炊き上がるまでの間に開店の準備をしておく。炊けたご飯にホタテのたくさん入った具を混ぜ込む。そのメニューは現在 出してはいないが、今でも「おいしかったよね~」と言ってくれるお客様がいる。
11:30開店―20:00閉店 オープンから1か月間は時間をいろいろと変えてみたりして、最終的に決めた。定休日も1か月間は曜日をずらしてみたりした。火曜日が売上が僅かだが落ちる風だったので、最終的に定休日を火曜日に決めた。現在は無休でやっている。
最初の1か月は、とにかく疲れた。9時過ぎに家に着くころには夫婦でぐったりしていた。気分転換に毎晩2人でビールで晩酌してはお店の話をしていた。今と 比べると大した仕事量じゃないのに、かなり疲れた。飲食店を営業すること自体、全くの初めての経験だし、経営という側面もある。全てを自分たちで決めない といけない。一切の形がない状態からのスタートだから、毎日が「どうしよう?」の連続だった。
オープン前に考えていた売上目標は超えていたので、最初の1か月は疲れの中にも心地よい達成感はあった気がする。しかし、1か月を過ぎると、途端に、そしてはっきりと売上は落ちていった。
精神的につらいのである。経験がないので、前日の売上と比べて、上がった下がったと、毎日一喜一憂していた。
今考えれば、売上が下がるのは当然だ。オープン前から1つとして告知・広告らしいことをしていないのである。電話回線すら引いていなかった。とても恥ずか しいのだが、当時は「大繁盛して大行列が出来たら電話なんて取っているヒマはない。だから電話は引かないでおこう。」なんて本気で考えていたのだ。
―そこにお店が出来て、オープンした。-
だたそれだけの話で、気づくのは通行人ぐらいだろう。でも当事者にとっては一世一代のお店開業物語なのだから、お客様は気づいて当然、来て当然、買って当然、ぐらいに無意識で考えていたんだと思う。
売上が下がるってのは、はっきりと数字として目に見える事象なので、さすがに焦って対処の方法が考え始めた。

「やってみないと判らない。」「やればなんとかなる。」それが僕の性格だから、お店の開業も見切り発車で「えいやっ」と勢いでいったようなものだ。お店の開業にはそんな勢いはとても大事だが、同時に慎重さも大事だ。
オープンから1か月経って、売り上げが落ちだして初めて気づいた。「お店を出しただけではお客様は来ない」そして「お客様を呼ぶ何かをお店はしなくてはいけない」のだということを。
それは「集客」ってやつだとは知っていたが、「集客」が意味することが何かは判っていなかった。スーパーなどでやっている販売促進のチラシとかだろうと思った。とにかく、図書館で「集客」や「繁盛店」などのキーワードで検索した本を借りまくって読んだ。
小手先の知識を付けたところで、いろいろと試し始めた。
ホームページは作ってもらった。www.zangiya.com ドメインはこの時に取得しておいて良かったと思う。無料でつくれるブログも必須。このブログのことだ。店頭にはA看板(2枚が対になって、横から見たらA のような形の看板)を設置して、蛍光ペンを何色も使い、マメに書き変えたりした。これも本の入れ知恵だ。ある本では「アナログブログを書こう!」と勧めて あり、毎日ちょっとした文章を看板に書くというものだ。さすがにここまでマメには出来なかった。ラミネーターを購入し、価格を大きく表示したものをラミ ネートしてお店の前にべたべた貼ったりもした。とにかく目立てばいいということだ。いろいろやったがどれが効果があって、どれが効果がなかったとかはあま り判らなかった。はっきりと数字が出るような効果的なことを実はやっていなかったのだ。本には「ブログを書いて売上アップ!」などと成功事例が紹介された りしているが、「風が吹けば桶屋が儲かる」ほど気が遠くなる話ではないにしても、ブログを書いて売上アップなど特殊事例だってことに気づかなかった。
まぁとにかく本に書かれていることをなんでもざんぎ屋でやってみた。売上は依然として低空飛行を続けていたが、とにかく何か売上に関することをやってはい る、ということで自分で納得はできた。今考えると、ここでほとんど効果のないようなこともいろいろとやったからこそ、次に繋がるマーケティングの下地が出 来ていたと思う。
お客様を呼ぶ一番効果的な方法はなんだろう、と素人夫婦でいろいろと考えいたが、なんと1つの結論が出た。それはTVに出ることだ!取材されればお金もか からないだろうし、TVに出れば一気に知名度も上がるし、夢にみたお客様の行列もできるかもしれない。また口コミで出演後も広告効果が期待できるし、TV に出たってことで箔がつく。
なんと安易で素人な考えなんだろう。でも、この時からTV出演が夫婦の目標になった。

チラシも作った。最初のものは3000枚ほどしか印刷しなかったので、1枚あたりの単価がかなり高くついた。1枚15円以上だったと思う。
とにかくチラシを作る必要がある、としか考えていなかったため、看板をお願いしたデザイナーさんに看板と同じデザインでチラシも依頼した。このチラシで一番目立つのは片面いっぱいの大きい店名ロゴだ。裏面はメニューと地図、ざんぎとは何かのちょっとした説明だけ。
このチラシは店頭で配ったり、お客様のレジ袋に入れたりしたが、ほとんど効果がなかったように思う。なにしろ、すでに知っていることしか書いていないのだ から。お店に来ているのだから場所は知っているし、買っているのだからメニューも分かっている。店名なんて大きく書く必要なかった。
その後、「大繁盛チラシ」とか「チラシで集客」みたいなタイトルの本を片っ端から図書館で借りまくって、次のチラシを考えた。
多くのチラシの中から手に取って見てもらわないと始まらない。目立つためにまず目を引くポイントをいくつか作った。何が書いてあるんだろうと思わせるよう に文字量を多くする。手書きの筆文字で差別化する。店主夫婦の顔写真を載せて親近感を持たせる。などだ。目立つだけではダメでチラシを手に取った後も重要 だ。内容はこだわりのある個人店というイメージをチラシにのせた。その1からその5まで、ざんぎ屋のこだわりを細かく説明し、手書きの手紙では店主の感謝 の気持ちとざんぎ屋の決意表明を筆で丁寧に書いて、伝えようとした。
裏面はメニューや地図などのお店の基本情報が片側半分に乗せた。クリスマスが近かったので、残り半分はクリスマスの特別メニュー丸どり揚げの予約告知を作った。
このチラシを11月の第一週のリビング新聞に折り込むことにした。リビング新聞は家庭に無料配布される主婦向けのフリーペーパーである。他にもショッパー などいくつか似たような媒体があるが、夕食時のおかずでざんぎを食べてほしいと考え、主婦層に向けて広告したいとリビング新聞を選んだ。
町田駅周辺1km程度を配布エリアにすると、配布枚数は確か5万枚ぐらいだったと思う。お店を始めたばかりの僕にとって、5万枚という数字は全く想像でき なかった。5万枚も配布したらたくさんのお客様が来て、対応できなくなったらどうしようって心配した。大体素人は必要ない心配をして、自分にブレーキを最 初からかけてしまうものだ。こんな考えでは売れるものも売れやしない。やるときはけち臭くやってはダメだってことをこのときは判っていなかった。第一、チ ラシなどは1回では効果は出ないってことも知らなかった。閾値(しきいち)ってのがあって、ある情報を積み重ねていくと、あるラインを超えると急に効果が 出てくるという、その一線のことだ。チラシなどは最たるもので、今はほぼ毎日スタッフみんなで手分けしてポスティングを実施しているが、団地などをポス ティングするにしても、1回2回じゃ全く反応(注文)はない。でも、4回目をポスティングした次の日に急に3件注文が入ったりする。
5万枚の料金は結構高額だ。デザイン費+印刷費+折り込み費となる。勇気がでなくて、ざんぎ屋のある住所のみ9000枚を配布エリアとして、折り込みを頼 んだ。それでも費用はたしか12万円以上になったと思う。いろいろと本を読んでの戦略のつもりだったが、やったことがないのでやはりイチかバチかの賭け的 な気分でもあった。
11月の第一週に折り込みを予定していた。リビング新聞の配布日は水・木だったと思う。何しろ、何冊も本を読んでいろいろ とアイデアを盛り込んで作ったので、気合も十分だったし、自分なりに「これだ!」ってチラシが出来たので期待度も大きかった。その心意気が伝わったのか、 なぜかまだ配布されていない月曜日から急に売上が上がったのだ。自分たちの「やるぞ」っていう気持ちが周りに影響していたのだろうか。潜在意識が先行して 近所の人たちに伝わったのだろうか。はっきりとした理由など判るはずもないが、不思議なこともあるものだ、と夫婦で話した。配布日になると、早速チラシを 見たというお客様が来た。反応は良かった。
今回のチラシ折り込み販促企画は、利益が出たという点で成功だ。このチラシが上手くいった理由はなんだろうか。一言でいうと「ビギナーズラック」みたいなものだったんじゃないかと思う。本当にタイミングよく全体が上手く影響し合ったんだなと今は考えている。
ざんぎ屋周辺のみに折り込みしたが、それでもざんぎ屋をチラシで知ったという人がほとんどだろう。路地1本違えば、知る由もない。オープンしたてのお店の 認知はそんなものである。そんな「ざんぎ」なんて珍しいものを売っているお店が歩いて5分ほどのところにある、と知れば今度行ってみようかなって思っても らえたのだろう。
10月ぐらいからから揚げは売れる時期だと思う。商売的にも年末に向けてお金を使う時期だから、売上は上がるだろう。また、ざんぎ屋はちょうど半年経っ て、口コミなどで認知され始めたこともある。そこに加えてのチラシ折り込みだったから、タイミング良く、効果的だったと思う。

つづく